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【インタビュー】早乙女太一[2023/06/01]

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世の中の復活を願って、「お祭り」の原点へ回帰する。劇団朱雀が進みたい未来

早乙女太一が2代目座長をつとめる劇団朱雀が、5月〜6月にかけて東京・大阪・福岡・沖縄の4都市で『祭宴』を上演する。大阪公演は6月7日(水)~11日(日)までCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて開催。2015年に解散後、2019年に復活した劇団朱雀。前回の大阪公演からは約3年半ぶりとなる公演を前にして、公演と朱雀への想いや、新メンバーのダンサー、朱雀の未来について、早乙女太一に話を聞いた。


心の活気を取り戻すような公演に。

――2019年の復活公演と2020年のぎふ葵劇場の幕引き公演を経ての今回の公演、改めて今の想いをお聞かせください。
「復活公演の千秋楽が終わった直後から一気にコロナ時代に突入して、幕引き公演は本当に運が良く、緩和されたタイミングでの開催で。もう本当にくぐり抜けてきましたね。コロナが始まった頃は窮屈に感じてたマスクや人との距離感が今では当たり前になって、それは僕としてはすごく悲しくて。次に朱雀の公演をする時は、元通りの舞台の作り方ができたらいいなと思っていました。でも目処も立たないし、何となくこのぐらいの時期には少しずつ元に戻ってるんじゃないかなという予想と願いを抱いていたら、今回もたまたまマスクが任意で声出しも解禁になって。朱雀はそういったタイミングには恵まれていますね。僕たちもお客さんも、心の活気をもう1度取り戻すような公演にできたらいいなと今思ってます」

――声出し解禁は嬉しいですね。
「普通の舞台はそんなに声を出すことがないんですけど、劇団朱雀の公演は舞台というよりお祭りを作ってるような感覚が近くて。お芝居もあるし、大衆演劇ならではの掛け声、歌舞伎で言う“大向こう”や“はんちょう”みたいなものもあるし、僕たちがコールアンドレスポンスしてライブみたいな空間になる時もある。今回久しぶりにそうできたらいいなと。大衆演劇は、舞台だけじゃなくて空間自体を楽しんでもらえるものだと思うので。見てる人も演じる人が1つになっていく。それは僕たちだけじゃ絶対に作れないから、お客さんと一緒に作りたいなと思います」


演出家として、1人1人がちゃんと輝き、挑める場所を作る。

――今回は女形の舞踊ショー、日替わり芝居、全員の舞踊ショーという3部構成ですが、日替わり芝居の脚本はどのようにされたんですか。
「脚本は、以前も書いてもらった劇団☆新感線の座付き作家の中島かずきさんに1本新作(『桜吹雪八百八町』)をお願いしました。残りはやったことのある芝居が8本ぐらいかな。だから全部で9本くらいを日替わりで回していく感じですね」

――東京公演まで1ヶ月を切りましたが、進捗はいかがですか(インタビューは4月下旬に敢行)。
「踊りは骨組ができていってます。お芝居に関しては数が多すぎて、多分稽古しないものも出てくると思うんですよ。新作は明日からやっと取りかかります。櫓は作っていってるけど、まだ上は見えてない感じですね」

――稽古の最終日に向かって、どんどん高まっていく感じですか。
「そうですね。とは言え、こうやってちゃんと作るのは復活してから2回目なので、4年ぶりぐらい。だから前回とまた作り方も挑み方も違うんです。正直なことを言うと、まだ不安の方が多い状況ではありますね」

――その不安や焦りは、どなたかに相談されるんですか。
「しないです。とにかく作っていきますね」

――作っていくと不安も解消されていく?
「本番が始まっちゃえさえすれば、もう言わずもがなで皆命を懸ける人だというのはわかっているんですけど、単純に見せ物として自分が作らなきゃいけないので。朱雀をずっと応援してくれてる方たちを楽しませたいのはもちろんだけど、大衆演劇を全く知らない人たちや、舞台を初めて見る人たちにもちゃんと楽しんでもらいたい。どうやったらこの特殊な世界観が受け入れてもらえるのか、今までのものも残しつつ新鮮に楽しんでもらえるのか。それを作っていく時は、毎回ワクワクするしドキドキもします」

――稽古場の雰囲気はどんな感じですか、
「稽古場はいつも和気藹々としてます。ほんとに仲が良くて、仕事がなくても一緒に飲んだりするメンバーなので絆はあるんですけど、良い意味でなぁなぁにならないというか。皆が皆刺激し合ってるし、皆が皆”もっと頑張んなきゃ、もっと頑張んなきゃ”って、悪い意味じゃなく自然と競争できる。認め合って戦える関係ってなかなかないので、良いチームで作ってるなと思いますね」

――今回はそこに新しく5人のダンサーさんが加わりました。
「朱雀の彼らは見たこともないようなレベルの高い踊りを目の前で見て単純に感動してる。僕もそうです。”俺、もっとやんないと真ん中立てないな”って。座長だから真ん中には立つんだけど、このままじゃ立てないという焦りも感じられるし、身が引き締まります。皆も同じ板の上に乗って一緒にやるならもっとやらなきゃって。本当に皆勝手に切磋琢磨して、ふざけ合いながら真剣にやってますね」

――演出家として心がけていることはありますか。
「とにかく1番は、役者や踊り手さんたち、1人1人が輝きたいと思える場所を作ること。僕だけじゃなく皆が輝けないと意味がないので。それは演出家として1番大事にしてるところです。あとは単純に見せ物としてお客さんに楽しんでもらえる踊りやお芝居を提供できるかどうか。その2つですかね」

――皆さんが輝けるように、どんな指導を入れられるんですか。
「ほんとに個性がバラバラなので、なるべくその個性をお芝居で最大限に活かせるようにというところですね。例えば“この日はこの人が輝く踊りで、夜の部はこの人が輝く芝居にしよう”とか。お客さんに楽しんでもらうのが1番だけど、一緒に作品を作る人たちが楽しいのが大事なので。“楽しい”というのは単純にハッピーというだけじゃなくて、ちゃんとチャレンジできること。それを皆何よりも求めてると思うから、課題を作って一緒に乗り越えていく。それが演出かどうかわからないけど、チームとして1番大事にしたいなと思うことですね」

――“こういうことをやりたい”と言われることもありますか。
「お芝居の時はありますね。役者でアイデアを出して、“こういう芝居の方法はどうか”など色々試してみて、“面白くないからやめとこう(笑)、面白いからやろう”みたいな」

――意見も交えながら一緒に作り上げてらっしゃる。
「でもね、意見を組み合わせることはほぼないですね。もう実践で試していく感じです。僕たちは言葉で表現できないことを表現しようとしてるから、言葉ではどうしてもコミュニケーションの限界があるんですよね。だからまずやってみせるしかないし、やってもらうしかないんです」


朱雀の舞台には、人間そのものの命の美しさがある。

――「踊りに力を入れたい」という構想は、公演を決めた時から頭の中に描いてらっしゃったものがあったんですか?
「それはあります。お祭りにも種類があって、元を辿れば踊りや歌は全て祭り事で、神様に奉納するもの。祈りから踊りや歌が始まって、それがエンターテイメントになり、どんどん娯楽性が高くなったものが現代のお祭りになっている。だから僕は根本の祭り事というところも含めて、今回の作品でやりたいなと思っていて。説明すると恥ずかしいけど、すごくざっくり言うと、この世の中が少しでも復活してほしいなと。朱雀自体が復活の鳥だから、そういった願いも込めながら、朱雀を自分たちに降ろして、人の心のモヤや目に見えないものを少しでもなぎ払えたらいいなと思ってます」

――「原点回帰のような意味合いもあるんでしょうか。
「そうですね。多分祈りたかったというか、願いたかったんですね(笑)」

――そこを実現するために、ダンサーさんを増やされたんですか?
「単純に表現のレベルを上げたかったのが1つ。あとはすごく語弊がある言い方かもしれないけど、朱雀の舞台には芸がある人もない人もいるんですね。そこが面白い。僕なんかはそれこそ女形や殺陣で、魅せる美しさを表現として持っている。でも芸がなくても、朱雀の皆は本当に1回1回の舞台で、大袈裟じゃなく死んでもいい覚悟で命を懸ける人たちなんですね。それって当たり前のようでなかなかできないこと。彼らが命を燃やして舞台に懸けてくれるからこそ、泥臭いかもしれないけど、芸や技術といった美しさではない、人間そのものの命の美しさがある。それは多分、僕にできないことを彼らがやれるし、彼らにできないことを僕がやるからこそ生まれる相乗効果。だから仲間でもあるし、舞台上で戦うライバルでもある。そういった目に見えない会話がお祭りのようになっていくんですよね。皆住む場所も、やってることも違うけど、1つの空間で1つになれるのが朱雀です」

――なるほど。
「今回は特に普段自分たちのフィールドで活動してたら会うことのない人種が混ざってます。でも共通するのは、ただ仕事をこなすんじゃなくて、自分のやってることに命を懸けられる人たちということ。ただ、色んな表現方法を持ってるから、妖怪の百鬼夜行みたい(笑)。ぐちゃぐちゃな人たちなんだけど、集まると1つの祭りになる。毎回朱雀では役者のゲストを入れてたんですけど、今回はダンサーさんたちに新しい色味を足してもらいたいですね」

――皆さんの根本には共通言語があるんですね。
「僕たちが朱雀でいつも言ってるのは、芸事なんて大したこと俺たちはできないから、とにかく一生懸命に命を懸けてやらないとと。今は娯楽も高い技術もたくさんある。でも命自体の輝きというものは、芸事だけでは表現できないんですよね。何が人の心を動かすかというと、結局は人の命が見えた時。もちろん芸事をしっかり見せるのは前提だけど、1番大事なのは本当に1回1回、皆でお客さんと向き合って空間を作ることだと思います」


個性豊かな5人のダンサーたち。色んなタイプの娯楽を楽しんで。

――新メンバーの5人のダンサーさんの印象をお聞かせください。
「今回集まってもらった人たちは、本当に色んな種類のダンスができる人たちです。というのも、朱雀に出てもらうって結構難しくて。何か1つに特化してても、ただのカッコつけも出れないんです。何でもやるのが大衆演劇なので。だからある程度どのジャンルも踊れて、なおかつ個性がある人。ちゃんと心が裸になって板に立てる人。そんな人を、いつも朱雀の振り付けをしてくれてるダンサーの関根アヤノさんに探してもらっていました」

――小林礼佳さんの印象は?
「礼佳さんは本当に満遍なく表現もできるし、今アヤノさんのアシスタントをされているので、冷静に状況を把握して骨組を作ってくれる。そしてプレイヤーとしてもパフォーマンスできる。すごくしっかりしてるけどラテンは情熱的。面白い人ですね」

――沙也香さんはいかがですか。
「沙也香さんはジャズが得意で、結構男勝りな性格。空手の型の黒帯を持ってて、めちゃくちゃエネルギーがある。自然と朱雀メンバーのおじさんたちのケツを“押忍!”と叩いてくれる(笑)。そんなパワフルさがありますね」

――双子のYui&Maiさんは。
「彼女たちは子供の時からずっと一緒にダンスして、2人でダンスユニットを作って表現して。ある時はものすごく仲が悪かったりしたけど、大人になって仲良くなって。僕は兄弟だからまた感覚が違うかもしれないけど、多分ライバル的なところもあるんですよね。一緒だけど一緒じゃない、“私は私だ”という。その辺りも全部認め合って2人で表現してるから、個人でやってきた人の強さとは違う強さを持ってる人たちだなと思いましたね。僕たち兄弟も、それこそ友貴なんかは常に僕が前にいて、悪く言うと邪魔だし比べられる。だからこそ、分かち合えた時は1番身近な仲間で良きライバルにもなる。そういったものをYui&Maiにもすごく感じています」

――Pecoさんは。
「Pecoはもう天才型。まだダンスを始めて7~8年ですけど、成長が目まぐるしい。良いものを見たら良いものを吸収できる、ものすごい吸収力がある。あとはマインド。パッションで出す華やかさは生まれ持った性質なんだろうなと。あれはすごいですね。華がある人です」

――そんなメンバーで行われる公演、ズバリ見所は?
「色々ありすぎていつも困るんですけど、それが見所だと思うんです。バラバラな世界観で、何が出るかわからないガチャガチャ感というか。お祭りで言うと、鳥居をくぐったらブワッと屋台が並んでるみたいな、“好きなものを選んでください”みたいな感覚もある。娯楽の原点もきっとそこにあると思うし、色んなタイプの娯楽があることが、大衆演劇ならではの魅力だと思います」

――今回はSNSの発信も活発にされておられますね。
「今まで、劇団朱雀自体をほぼ僕1人でやっていたんです。最初の頃は振り付けも演出も、いつ公演をするか決めるのも全部僕。それがだんだん仲間が増えてきて、僕も1人で突っ走らないようにしようと思って。若い頃はまとめ方がわからないから、とにかく先頭を突っ走って、ついてきてもらうやり方しかできなかった。今は皆で作れる環境になったので皆を頼ってます。SNSも劇団員のみんながやってくれてる感じですね」

――大阪公演の会場のTTホールは、COOL JAPAN PARK OSAKAの中で最も客席と舞台が近いホールです。出演されたことは?
「ないです」

――初めての劇場なんですね。
「大阪は割と初めての劇場が多くて。今回の大阪公演の劇場TTホールも初めてなので、僕なりの挑戦でもあります。大衆演劇の劇場は空間的に人との距離が近いので、1つになりやすいと言えばなりやすいんですよ。でもそれだけだと、新しいものが生み出せない気がしていて。だからハコが大きくなっても、朱雀がどれぐらいその空間を1つにできるのかが挑戦です。今回東京、大阪、福岡と徐々にハコが大きくなるんですよ。距離が遠いと顔が見えないので表現方法も変わってくるし、踊りも作り方も変わるんですけど、ハコが大きくても小さくても、朱雀がやれば1つになるという作品をこれから作っていきたいですね」


朱雀が“お祭り”になっていきたい。

――様々な分野で活躍する早乙女さんの中で、劇団朱雀は今どんな存在になっていますか。
「まだ定まってはないんですけど、ホームにしたいなとは思いますね。自分が帰るべき場所というか。守るものもチャレンジしたいこともある。何となくそういう感じになればいいなと思って今はやってます。僕だけじゃなくて、皆が何年かに1回帰る場所、そんな原点になればいいなとは思ってます」

――使命感を持っておられたりしますか。
「使命感はなくなりましたね。元々はずっと嫌だったし、割と否定的だったんで。でも自分の育った場所で、ほとんど苦しい思い出しかなかった場所だからこそ、今の自分が好きな場所を作りたい。じゃないと、過去の自分がやってきたことの意味がなくなってしまうので。最初はそんな意地みたいなものから始まりました。でも今は皆が輝いてる姿を見ることが多くなって、何となく作れてる実感はできてきた。だからこの場所を守りたいし、ここに留まらずに大衆演劇を作りたい。テレビもない時代に1番大衆の身近にあった娯楽が大衆演劇で、結局その時流行ったものを続けてるのが今の大衆演劇。でも今の時代の身近な娯楽は携帯の中にあって持ち歩けるし、自分が行かなくても観れる。じゃあ今“大衆演劇”と名乗れるにはどうするかと言うと、原点に戻って、色んな土地に公演をしに行くだけじゃなくて、その土地の人と店を出したりテントを立てて、一緒にお祭りを作りたい。演じる人と見る人だけじゃなくて一緒に作るものとして、朱雀が“お祭り”になっていければというのが、今の所の朱雀の進んでいきたい未来です。それができたら大衆演劇だと思うし、娯楽の原点に帰れるんじゃないかな」

――最後に関西のファンの方へメッセージをお願いします。
「朱雀を見たことがある方たちにとっては、懐かしみのあるものも、新しい色が加わった朱雀も見せられると思います。まだ見たことがない方は、本当にお祭りにぷらっと遊びに来るような感覚で来ていただけたら、楽しんでもらえると思うので、ぜひ気楽に見に来てください」

取材・文:久保田瑛理